炭素鋼と合金鋼 だまされない為の知恵
先日の火花の話の件です。
鋼は、思いっきり大きく分けて炭素鋼と合金鋼に分けることが出来ます。 炭素鋼は、人類が始めて手にした鋼であるといえ、鉄と炭素の二種元素のみで構成されます。
これらのみで純度が上がれば上がるほどに、また熱処理の妙技が掛け合わさると素晴らしい物が出来上がるといわれてきております。
また主に五属、六属に属する典型非金属元素である、P燐、As砒素、S硫黄、Seセレン、は鉄にとってとっても有害です。
しかし、炭素は木炭やコークスが燃えるのと同様、当然酸素を好み呼び込むとされ、結果錆びやすい鋼となります。 よく錆びると深く穴が開く鋼は炭素鋼である可能性が高いと考えられます。
もっと簡単に調べてみる方法があって、グラインダで火花を飛ばせば、一発で分かります。 夏によくやる線香花火が、炭素鋼火花の良き例です。 線香花火は、黒色火薬ベースで、(硝酸カリ KNO₃)+炭素+鉄粉が主力で作られる花火です。
この7枚画像は、出張仕事での文化財修理で出てきた道具を、夜が余りにも暇なのでお直しした物。My 日立工機BGM50はとてもステキでして、右のワイヤブラシで錆落としです。
明治初期以前より手付かずでしたので、それ以前の道具と思われます。クタクタに錆びて、裏にアナポコ開いてます。裏だしを強烈に何度も行いアナポコ除けましたが、ホトホト馬鹿らしく思いました。
炭素鋼の典型火花。
踏鞴製鉄でできるケラ。鍛えて玉鋼とか和鋼といわれるものになります。
冶金時に過還元雰囲気に晒され浸炭しており、これもまた火花飛びます。
真ん中が綺麗でモテそうですが、有害な元素が介在すると綺麗な色になるとの事。左が良品
江戸の掛かりの頃の貴重な和釘で一本7寸クラスの良き物でした。
釘は細いところが浸炭しており、地金にする事は難しいとされてきました。
鍛えながら炭素量を下げ、焼きの入らないような鉄にできるということで託してみましたが、この有様。
無論見事な焼きが入りました。こうなてしまうとお釈迦様で、薄い身の刃物の地金とする他生かす道はございません。残念ですがそのうち包丁にしましょう。偉い先生に知れたら大目玉です。
これが、本題でございます。左がイケイケのときの線香花火で、炭素分が大量にあるときの物。
右は、晩年の線香花火さんでこの火花が、壮年期と対比されなんともいえぬ趣を感じるものです。
炭素がどんどん空気に触れ燃え抜けてしまったので枝分かれしない火花になると言う事は、線香花火を純粋に楽しみたいのであれば、知らないほうが幸せなことです。
鉄と炭素が混在すると、あのような綺麗に枝分かれする火花となり、炭素分が多いほど顕著です。
0.5%超えるとまぁ綺麗に枝分かれするので、誰でも視覚的に見分ける事ができます。
鋳物は2%近くあってとっても線香花火のように分かれます。
炭素と一緒によく燃える鉄は、こんな感じだと思って問題なかろうかと思います。
燃えやすい鉄=錆びやすい鉄 です。
合金鋼は、西洋で開発された鋼で熱処理特性や耐摩耗性が向上して95%以上の中堅クラス以上の鉋は、合金鋼であると思って構わないかと思います。
Crクロム、Wタングステン、Vバナジウム、Moモリブデン、Niニッケル、等々 遷移金属元素がよく添加されます。
白鷹先生自身が記述した記事にありますとおり、近世製鉄法である何十メートルもある巨大な高炉によって、コークス・石灰石・鉄鉱石を積み、大量送風・完全溶解冶金では、大量生産・歩留まり向上は望めますが、化石燃料の宿命といえるコークス内のリンと硫黄もインゴットの中に介在してしまいます。産業革命時分において木炭を還元剤として使うやり方ではリン・硫黄の介在は木炭自体の炭素分の純度が高く懸念されませんでしたが、コスト高と森林破壊を招き、それを避けるべくしてコークスが台頭し今に至ります。
有害元素類を硫化物として封じる為モリブデンが添加され、それが金属結晶間に居直る事で錆が根付き、「現代鉄は内側から錆びる。」と俗によく言われてしまうのです。
二硫化モリブデンという響きはよく耳にするかと思います。黒いグリスです。結晶が平面状で圧縮に耐え結晶同士よく滑るステキな特性をもちます。重負荷軸受けにモテモテで熱的・科学的にも非常に安定で不退転です。
これは、単純に硫黄とモリブデンが非常に仲良しという事を意味します。
硫黄を二硫化モリブデンとして封じる事ができてもコイツが、結晶に根付くとそのまま錆の導火線となり、内部から爆破という時間差的というか時限爆弾のような有害物質ということになるかと思います。
詳しくは、白鷹先生が記した記事や、出版された本をお読みなると宜しいかと思います。
Cr・Niは不錆鋼のための不可欠な元素。
18-8ステンレスは 18度クロム 8度ニッケルを意味します。
これらの金属元素が添加されるとたちまち燃えにくい鉄となり、青紙などの特殊鋼(合金鋼)の錆の根は浅く、合金度が進むほど顕著です。
真っ赤に錆びた燕鋼ではその端を実感しました。磨けば見事に復活します。
青紙の火花は、先日Kiyondoさまがリンクを張っていただいたところに載っていると思います。
典型かとおもわれます。
燕とかハイス・V金・銀紙などは更に暗く殆ど飛びません。
玉鋼と銘打った鉋はよく目にしますが、先日Kiyondo様に試していただいたような火花である事が殆どです。
昔は、とっても適当であったと思われます。
多くの鉋鍛冶さんが、青1Bが一番無難で良いといいます。私も普通に仕上げるような物は青1Bです。
お財布にも優しくよく働きます。
鋼種云々は、遊び心かもしれません。
私は使えてよく働いてくれれば何でもいいので、尚そう思います。
今回御紹介させていただいた記事では、炭素鋼か合金鋼か大きく見分ける事ができます。
炭素鋼は SC・SK・黄紙・白紙・スゥエーデンアッサブ・同サンドビック・常三郎さんの川鉄炭素鋼・和鋼・玉鋼くらいだと思います。
鋳物は炭素大量に含んだ鉄です。
色々こすって遊んでみてください。
よろしくお願いします。
コメント
なかおか様
詳しい解説をいただき、ありがとうございます。
お手数をかけました。
そうすると例の玉鋼鉋はどう見てもアヤシイですね。
昔の木工道具をコレクションしている人の話を聞いても、
玉鋼の鉋はほとんどのものが脆く、刃先がポロポロ欠けるということです。
玉鋼でもそこそこいけるじゃないかと、ひそかに思っていたことも幻ということでしたか。
明治時代の頃から、玉鋼よりも容易く加工でき、大量に手に入り、
しかも刃物としての性能も良い洋鋼を使ってきたということに納得せざるを得ないのでしょう。
近年では安来鋼がそれに取って代わっているのでしょうか。
たしかに、近所のDIYショップで売られている千円前後の鉋でも充分使えますからね。
Posted by Kiyond at 2007.09.13 13:12 | edit
Kiyondo様
お疲れ様です。なかおかです。
実は、明治の頃のケラを持っていらっしゃる鍛冶屋さんいらっしゃいます。
昔ながら松ずみでその方が鍛えた物が最も評価高く実践で物好きな職人さんが好んで使っております。
コッソリすごい鍛冶屋さんがいらっしゃいますが、残念ながら彼を最後に途絶えてしまうと思います。
わたしも、先輩にもらったホームセンター用の寸四小鉋を多用しておりました。
なぜかしら抜群でしたので、反り台と長台を打って、 この刃一枚と樫で作ったダミーの刃二枚で合計して台三つを使いまわしてました。
誰が作ったとか、安い道具だとか、鋼がどんなのもであろうとも、私には大して興味ありませんでした。仕事で使えて捗る道具であれば、それが一級品だと考えてます。普及品仕様の納品物などで、名もなくひっそり仕事に取り組む職人さんでも、道具としての強力な力を生み出すことの出来る方が確かにいらっしゃると、思います。
今の世の便利な情報ツールを巧く使い、そのような方々に、光が当たるようになればいいなとも思います。
なかおか
Posted by なかおか at 2007.09.15 00:05 | edit